投資信託の分配金再投資の効果についてはさまざまな議論がありますが、分配金再投資による平均取得価額への影響は少なくはありません。
この平均取得価額に関連して、支払う税金の違いにより、分配型の投資信託を選択し分配金を再投資した方が、無分配型を選択した時よりもパフォーマンスが良くなる例を挙げてみます。
1. シミュレーション
1-1 設定
基準価額が下表①~⑥のように推移した、分配型投信と無分配型投信とを比較し、考えます。分配金の扱いや再投資など、詳細は後述します。インカムゲイン(IG)・キャピタルゲイン(CG)への課税はともに20%だとします。
※クリックで拡大します。1-2 毎月分配型の値動きと課税後リターン
①~③:
10,000円で10,000口買付けた投資信託は、③の分配前に基準価額が16,000円に値上がりし、含み益は6,000円になります。
④:
分配金を2,000円出しました。このうち20%が課税され、残りの1,600円を受け取る事になります。この時点で、③で6,000円であった含み益は、4,000円の含み益と、1,600円の確定利益へと変わります。なお、分配金が出た事で投信の基準価額は2,000円だけ下がります。
⑤:
受け取った1,600円の分配金を再投資します。基準価額が14,000円ですから、1,143口を買い付ける事ができます。基準価額が最初の10,000円より高い時に買付けた事によって、平均取得価額は410円上がり、10410円になります。
⑥:
最後は少し値下がりした所で手仕舞いです。この時点で2,886円の含み益でしたが、20%課税され、2,309円の利益を確定します。確定利益は、④の1,600円と合わせて3,909円になります。
1-3 無分配型の値動きと課税後リターン
①~③:
分配型と同じです。
④・⑤:
分配金を出さないため、投資信託の基準価額は下がらずに16,000円と高いままです。分配金を再投資しないため、平均取得価額は10,000円で低いままです。
⑥:
分配型と同じ比率で、少し値下がりした所で利益を確定します。基準価額が高く平均取得価額が低いため、課税前利益は4,857円です。(分配型の2,886円と比べて大きくなります。)このため、分配型よりも多くの課税をされ、課税後のキャピタルゲインは3,886円で、これが確定利益になります。
2. 分配型と無分配型との利益比較
以上まとめますと、投資家が得られる課税後の利益は、
分配型: 3,909円
無分配型: 3,886円
です。
分配型の方が、23円多くの利益が得られています。
このように、分配金再投資には、
①分配金が出る事による、投資信託の基準価額下落効果
②平均取得価額吊り上げ効果
がある場合があります。この際は、キャピタルゲイン課税を低く抑えることができるために、無分配型の投資信託よりも課税後パフォーマンスが良くなる事があります。
3. 機会損失の考え方を用いた、別の視点での見え方
機会損失の考え方を用いれば、もう少しすっきりと考える事ができます。
分配型は④で400円課税されて運用額が減っています。本来は複利効果の原資になる400円ですが、今回のパターンでは⑤から⑥にかけて値下がりしていますので、複利効果はマイナスです。
以上から、複利効果の機会損失の大きさは、20%のキャピタルゲイン課税を加味して
400×{ (13,000-14,000)/14,000 }×(1-20%) = -23 円
以上の計算から、分配型と無分配型との運用パフォーマンスの差分である23円が出て来ます。
注意)
この記事は、投資信託を用いた資産運用における、基準価額や平均取得価額と課税額に関する考察の一つとして投稿しています。毎月分配型投信での資産運用を推奨しているわけでありません。
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